この病気は生活習慣や肥満に起因して発症するものではありません。授乳期に発症することもあります。1型糖尿病は、自己免疫反応の異常やウイルス感染が引き金となり、すい臓のβ細胞が破壊されることによってインスリンを出せなくなるため発症します。また中には数年かけてインスリン分泌が枯渇する場合もあります。わずかですが原因不明で突発的なものもあります。
発症後は、一生、インスリンを注射やポンプによって体内に補充することが不可欠です。年間発症率は10万人当たり約1.5 ~ 2.5人と言われています。2型糖尿病に比べ非常に発症率が低く、そのため社会的な理解が進んでいない現状があります。大人の誤解や無理解によって子どもたちを苦しめることがあります。
参考
血糖を下げる仕組みについて
糖分を含む食物はブドウ糖に分解され血液中に吸収されます。血液中のブドウ糖が増えると、すい臓からインスリンが分泌され、その働きによりブドウ糖は筋肉などへ送り込まれてエネルギーとして利用されます。また、すい臓からのインスリン分泌には、継続してほぼ一定量が分泌される「基礎分泌」と、食事などの血糖値の上昇に応じて分泌される「追加分泌」があります。
一般に「糖尿病」と言われるものについて
これは2型糖尿病を指し、生活習慣や肥満などに起因して発症することが多く、インスリンが相対的に不足するものです。
健常者のインスリン分泌には、1日を通して分泌される「基礎分泌」と食事を取ったときに分泌される「追加分泌」があります。1型糖尿病のインスリン治療は、これら基礎分泌と追加分泌をインスリン製剤で補う「強化インスリン療法」が基本です(乳幼児などでは他のインスリン療法も行われます)。
強化インスリン療法には、専用の注射器で皮下に注射する「頻回注射法」やインスリンポンプで補充する「持続皮下インスリン注入法」があります。食事の量や内容,運動量や体調などが、必要なインスリン量に影響しますので、血糖値を安定させるのは容易ではありません。特に下がり過ぎたときは、後述の「低血糖について」で示す症状が出ますので対応が必要です。
2種類のインスリン製剤を使い分けます。「基礎分泌」を補う「基礎インスリン」(持効型インスリン)を1日1 ~ 2回注射します。加えて「追加分泌」ための追加インスリン(超速効型インスリン)を各食事の前に注射します(食べる量が分からないときは、食後に注射することもあります)。注射の量は、体格、食事量、運動などによって変化し、体調にも影響されます。
皮下に留置した細いチューブとカニューレ(注入セット)を通してインスリンを注入します。超速効型インスリン製剤をあらかじめ設定した速度(人によって異なる)で皮下へ持続的に注入することによって「基礎分泌」を補います。「追加分泌」については、ポンプのボタン操作で食事の前にインスリンを追加で注入します。量は、体格、食事量、運動などによって変化し、体調にも影響を受けます。
この症状への対応が最も重要です。低血糖とは血糖値が正常範囲以下にまで下がった状態のことをいい、ふるえ、冷や汗、意識障害、けいれんなどの症状が現れます。
低血糖は最初に症状が起きた時にきちんと対処すれば回復します。過度に低血糖を恐れることはありません。多くの子どもは症状を感じたら、自分で補食としてブドウ糖やブドウ糖を含む飲料水などを口に入れます。また症状が見られた場合、まずブドウ糖やブドウ糖を含む飲料水などを与えます。血糖測定はそのあとで構いません。
低血糖を起こしやすいときは、主に以下の場合です。
・インスリンの量に対して食事の量が少なかったとき。注射後、食事の時間が遅れたとき。
・予期せずに運動量が多すぎたとき(運動することが分かっているときは、事前に補食したり、食事の時のインスリン量を減らします。)。空腹時に激しい運動を行なったとき。
・インスリン注射量が多すぎたとき。
1型糖尿病によって運動が制限されることはありません。プロスポーツ界で活躍している1型糖尿病の方もいます(阪神の投手:岩田稔,Jリーガー:杉山新ほか)。
運動するとインスリンの効きが増大し、低血糖になってしまうことがあります。低血糖を起こさないように、インスリンの量や補食を取って血糖値を調整する必要があります。具体的には体育の授業や長時間にわたる運動の前には補食したり、インスリン量をいつもより減らして対応します。
この病気によって食事が制限されることはありません。
「インスリン注射・血糖測定の場所」、「低血糖時の対応」、「クラスメートへのお話し(希望する場合のみ)」について、一般に先生方と保護者,本人で話し合い決めています。
多くの子どもたちは教室や保健室で注射や血糖測定を行っています。しかし人目を避けるためトイレなどで行っている子どももわずかにいますが、それが本人の希望でないのであれば避けなければなりません。
クラスメートや部活の仲間に対しては、病気を理解してもらい、もし低血糖になったとき近くの友達が手助けしてくれるように、保護者、子どもと相談の下、「体調維持のために注射やポンプによるインスリンの補充が必要なこと」、「低血糖になったときやその予防のために補食を取る必要があること」、「体調がよくないように見えたら先生に連絡してほしいこと」の周知が大切です。病気を知られたくない子どもについては、先生方の間で情報を共有していただければ幸いです。
特に高校生など未成年の就職活動については、病気のことを企業に公開して進めるほうが一般によいと思われます。正しく治療していれば健常者と変わりがないことを、同じ病気のプロ野球選手などを例に挙げて説明する文書を作ると、人事の採用担当者に短時間で理解してもらえます。分かりにくい説明は不要です。
保護者は学校と協働して就職活動を進めるべきですので、必要なことは保護者に要請することも考えていただければと思います。企業担当者の主な視点は、仲間とコミュニケーションが取れ協調性を持ち長く就業してもらえるかなどです。
1型2型を問わず糖尿病があると、新型コロナウイルス感染症に限らず、さまざまな感染症での重症化リスクが高いことが知られています。血糖コントロールを良好に保ち、リスクを抑えることが大切です。感染率自体には大きく影響することはないようです。
糖尿病のある人の新型コロナウイルス感染症への対応 (糖尿病に関するウェブサイト等から抜粋,データの増加とともに今後変わる可能性あり)