Home 過去の行事 行事一覧 2020年度行事 勉強会(杢野武彦先生)

杢野武彦先生のWeb講演会の報告

 Web接続していた数は20でした。家族で聴講している場合もありますので、おおよそ参加者は50名程度と思います。講師の杢野先生は、20年ほど前から「愛知県と岐阜県の学校教職員向け研修会」に協力いただいている先生で、サマーキャンプのスタッフとしても長年にわたって患児をご支援いただいています。
 はじめに、この講演で得てほしい目標として、1型糖尿病を自分で理解して、人に説明できるようになることを挙げられました。誰に何を伝えるかということですが、だれにでもわかりやすく説明できるようにすることが大切で、要点は、「1型糖尿病と2型の違い」、「治療法の違い(1型はインスリンの補充が不可欠だが、2型はインスリンの分泌を促すなどで異なる)」、「小児糖尿病と呼ばれることもあり、小児期に起こるものは1型が2型に比べて多いこと」であると言われました。1型の発症率は、すべての年代で10万人当たり2名ほどと極めて少なく、また就学前でも就学後でも変わらないもので、一方、2型は大人の割合が多いのですが、中学校ぐらいになると少しずつ現れ始めます。
 幼児期、思春期から成人になるまでは、1型糖尿病で直面する問題について、大小はあっても皆さん経験することなのですが、以下のことを挙げられました。
 まず社会/生活面では、「思春期など、心理的に不安定になる時期では対応が難しくなること」、「学校生活、進学、就職と、毎年の環境変化が大きい時期であるだけでなく、体も成長するので血糖コントロールが難しい時期であること」、「テレビCMや放送、マスコミの正確性を欠く表現のため、子供は1型が多数を占めることを社会的に十分理解されていないこと」を説明されました。我々が他の病気を果たして正しく理解しているかどうか、謙虚でありたいと思いますし、他人への1型糖尿病を説明するときもこうした視点を取り入れて行わないといけないと思います。
 無理解のため悲しい事件も起きました。2005年に大人の勝手によって1型糖尿病の子供がインスリンを与えられなかったため、恵那市の自然食品研究所で死亡した事件(詳細は、国立保健医療科学院 健康危機管理支援ライブラリー https://h-crisis.niph.go.jp/?p=83997など参照)を説明されました。周囲が理解していれば防げた可能性が高いと思います。残念なことに、それ以降も無理解の人が多く、不幸な事件は最近でも起きていて、2015年の祈祷師による殺人が認められた事件(詳細は、https://news.yahoo.co.jp/byline/yamamototakehito/20200827-00195273/など参照)を説明されました。
 長年、子供たちを見てこられたご経験と愛知県と岐阜県の教職員に対する研修会講師のご経験から、学校の友達や部活の仲間などに病気のことを知ってもらうのは、子供と相談して決めるとよく、そのためには周囲の人(学校だけでなく親戚なども)と良い関係を築いておくことが大事で、家族で協力し合うことが重要と指摘されました。一方、食事療法に関する誤解や無理解、健康番組の影響で誤った知識の押し付けは、患者にとって苦しいことで、学校、周りにちゃんと理解してもらうことが大切と言われました。
 学校ではインスリン自己注射、補食、血糖測定をいつも行う場所は子供の希望に合わせるのが適切で、クラスメートや部活の仲間には、インスリンは食事や運動の量に合わせること、補食と追加インスリンのことも理解してもらうといいとアドバイスされました。
 学校では、低血糖の対応が最も重要で、ブドウ糖などの必要量を学校側に伝えておく必要があること、また保護者に連絡がつかないときは主治医に対応を聞けるよう主治医の連絡先を学校に伝えておくことが、学校の先生を安心させるためにも必要と言われました。
 講演後、子供の血糖コントロールなどに対する質疑応答がありました。杢野先生は、市民向けの研修会などでも積極的に1型糖尿病を知ってもらう活動をしておられます。今後、医療の進歩にだけでなく社会の正しい理解も進んでいくと思っています。
 さいごに貴重なご講演をいただきました杢野先生に心より御礼申し上げます。

© 2005 つぼみの会 愛知・岐阜